JLPT N1 – Reading Exercise 27

#254

うちのいぬあたまがよくないけれどむやみにえない。これは犬種けんしゅ性格せいかくである。もうひとつ、絶対ぜったいみつかない。これは訓練士くんれんし仕込しこまれた成果せいかである。おおきないぬなので幼児ようじみついたら事件じけんになってしまう。 訓練士くんれんし二十代にじゅうだい女性じょせいでスクーターにってやってきた。訓練時間くんれんじかんしゅうに4かいかく30ふんである。半年はんとしちかっても訓練くんれんわらないので、いつになったら卒業そつぎょうできるんですか、とたずねた。家庭内かていないでの序列じょれつがはっきりしたら、と説明せつめいする。序列じょれつねえ、どういうことかな、 とさらに質問しつもんすると、おたくぼっちゃんがまだ……。 十年前じゅうねんまえなので息子むすこ小学生しょうがくせいである。体格的たいかくてきにもいぬ息子むすこがない。うちのいぬはまずぼく、つぎにつまつよむすめ降参こうさんしたのだ。だが息子むすこ軟体動物なんたいどうぶつのようにふにゃらふにゃらとしている。てばかりいる。きてもあくびばかりしている。両者りょうしゃ最下位さいかいあらそいをえんじたままつにんで決着けっちゃくがつかないらしい。 動物どうぶつ序列じょれつ敏感びんかんなのだ。(中略ちゅうりゃく女性じょせい訓練士くんれんし説明せつめいした。いぬをかわいがっているつもりであまやかし、うでをがぶりとみつかれたぬしがいた。あまやかせばつけがるだけ、自分じぶん主人しゅじんしんんでぬしをな めた結果けっかである。動物どうぶつはつねに威嚇いかくしながら序列じょれつ確認かくにんしているから、仲間同士なかまどうし本気ほんき喧嘩けんかをしない。相手あいてつよい、とわかればあらそわない。喧嘩けんかしたらたがいにきずつき、きびしい自然界しぜんかいではのこれないから。 さすがにのめぐりのわるいわがいぬも、ある息子むすこにゴツンとあたまたたかれ、最下位さいかい確定かくてい平和的へいわてきけがまり、予算よさんオーバーの訓練くんれん終了しゅうりょうした。 動物どうぶつから教訓きょうくんたわけではないが、家庭内かていないでもゆうテマエとしての序列じょれつがないと混乱こんらんがはじまる。親父おやじ権威けんい喪失そうしつかえしのつかないところまできたのは家父長制かふちょうせい否定ひていしすぎた結果けっかでもある。戦前せんぜん長子相続ちょうしそうぞくで、次男じなん以下いか相続権そうぞくけんがなく女性じょせいにいたってはその他大勢そのたおおぜいあつかい、ひどいものだった。そういう状態じょうたい復活ふっかつせよ、とべているのではない。 職場しょくば女性じょせいがもっと管理職かんりしょく進出しんしゅつできる環境かんきょうととのえたほうがよいし、ぼく経験けいけんからして共働ともばたきには賛成さんせいである。家事かじ分担ぶんたんしたほうがよい。だが男女平等だんじょびょうどうをはきちがえてはいけない。家庭かてい動物どうぶつめんがある。権威けんいとしての父性ふせい包容力ほうようりょく母性ぼせいまでけずってはいけない。父親ちちおや筋肉質きんにくしつひげをはやし、母親ははおやにはやわらかなはだとやさしい笑顔えがおがあるように、それらしくえんけたほうがよい。頻発ひんぱつする家庭内暴力かていないぼうりょく役割構造やくわりこうぞう喪失そうしつ無縁むえんでは ないからである。 (猪瀬いのせ直樹なおきいえ」1999ねんがつ26にち朝日新聞あさひしんぶん朝刊ちょうかんによる)

Try It Out!
1
「1」お宅の坊ちゃんがまだ……とあるが、「まだ」の後に続く言葉はどれか。
1. 小学生で、犬の訓練が苦手ですから
2. 序列が犬より上になっていませんから
3. 小学生で、訓練が終わっていませんから
4. きょうだいの序列を理解していませんから
2
「2」腕をがぶりと嚙みつかれた飼い主がいたとあるが、この犬はどうして嚙みついたか。
1. この犬は自分の方が飼い主より上だと思っていたから
2. 女性の訓練士に甘やかされて誰にでも嚙みついていたから
3. 強い相手に挑まなければ厳しい自然界では生きられないから
4. この犬は飼い主と自分の序列はまだ定まっていないと思ったから
3
「3」男女平等をはきちがえてはいけないと言っているが、筆者は「はきちがえる」とどうなると考えているか。
1. 共働きが普通になり、父親が家事を分担するようになる。
2. 父親と母親の家庭内での役割が混乱し、問題が生まれる。
3. 職場で女性がもっと管理職に進出できるような環境になる。
4. 家父長制が復活して戦前の社会のように人が序列化される。
4
この文章で筆者が最も言いたいことは何か。
1. 犬には訓練によって家庭内での序列を教え込むことが必要である。
2. 父親と母親の役割を明確にするために、家父長制を復活すベきである。
3. 家庭の問題を解決するためには動物と同じく序列化が必要である。
4. 親は家庭でそれぞれ父性や母性にもとづく役割を果たすべきである。