JLPT N1 – Reading Exercise 128

#355

たとえば、あなたが会社かいしゃなか企画部門きかくぶもんぞくし、「いち目標値もくひょうち設定せっていする仕事しごとあたえられたとする。ここでは達成たっせい不可能ふかのう目標もくひょう設定せっていしたところで意味いみがないとされるから、外部環境がいぶかんきょう内部ないぶ状況じょうきょうふくめ、諸々もろもろ要素ようそ検討けんとうすることになるだろう。そのうえ現状げんじょうからかんがえて、達成たっせい可能かのうかつできるかぎたか目標もくひょうさぐることになる。 このとき、あなたが今後こんごわりうる外部環境がいぶかんきょう完璧かんぺき予想よそうし、会社かいしゃ内部ないぶのすべてを完全かんぜん把握はあくしている存在そんざいであれば、目標もくひょう設定せっていする仕事しごとはこのうえなく素晴すばらしいものだ。社員しゃいん全員ぜんいんがこれにかって全力ぜんりょくせばそれでいいことになる。 しかし、実際じっさいにはそんなことはありえない。外部環境がいぶかんきょう予想よそうもつかない方向ほうこうわりうるし、社内しゃないでは、うえからのとどかないところでアイデアをかくったひとかならずいる。固定化こていかした目標もくひょうは、不確定要素ふかくていようそにまったく対応たいおうできないのである。しかも、こうした事前じぜん予想よそうができない要素ようそにこそ、おおきなビジネスチャンスがころがっている。 だから目標もくひょう設定せっていするならば、変化へんか対応たいおうするなかで、各人かくじん創意工夫そういくふうてにやっと達成たっせいされるようなものでなければならない。しかし、事前じぜんにこれらをすべてむことはできるはずもないから、なにとなく納得感なっとくかんのありそうなとしどころさがすことになる。大人おとなはこのとしどころという言葉ことば大好だいすきなのだが、こんなものに意味いみがあるはずもないのだ。これではすべての可能性かのうせいすことができないのである。 これは個人こじんとしてもおなじことある。(中略ちゅうりゃく試合しあい直後ちょくご力士りきしにインタビューをすれば、「明日あした一戦いっせんをまた頑張がんばるだけ」とこたえがかえってくるだろう。ゴルフツアーの最終日さいしゅうび明日あしたひかえたプロ選手せんしゅでも、翌日よくじつのスコア目標もくひょうなどはくちにしない。そんなことをかんがはじめれば、プレイがくずはじめることをっているからだ。それにもかかわらず、なぜかビジネスになると、途端とたんだれもが最終さいしゅうゴールをめようとする。スポーツよりもはるかに不確定ふかくてい要素ようそおおいにもかかわらず、目標もくひょうによって自分じぶんたちをしばりつけようとするのである。これにはかなり「違和感いわかんおぼえる。 どんなことでも、周囲しゅうい状況じょうきょうはどんどんわることがたりまえである。それにもかかわらず、自分じぶんだけわらないのはおかしい。過去かこてた目標もくひょうによって自分じぶん窮屈きゅうくつ存在そんざいにしてはいけないのである。もしどうしても目標もくひょうてたいのであれば、ほとんど実現じつげん不可能ふかのうなくらいのおおきな目標もくひょうつべきだろう。しかし、これ自体じたいはその達成たっせい方法ほうほうかんがえるのにやくにはたない。自分じぶん可能性かのうせい大事だいじにしたいのであれば、まえのことだけに没入ぼつにゅうし、なにかしらの変化へんか察知さっちするにつけ、つぎのベストをさがすというスタンスを保持ほじすることが重要じゅうようである。 (成毛眞なるけまこと大人おとなげない大人おとなになれ!』による)

Vocabulary (113)
Try It Out!
1
「1」目標値を設定する仕事では、どのような目標を設定しようとするか。
1. 外部環境や内部の状況の変化を完璧に予測した目標
2. 現在の状況から見て無理なく達成される目標
3. 成し遂げられる範囲の中で最も高い目標
4. 達成が難しくても取り組む価値のある目標
2
筆者は、何がビジネスチャンスにつながると述べているか。
1. 創意工夫を生み出す社内環境
2. 社員にとって納得感のある目標設定
3. 社内外の不確定な変化に対する大胆な予想
4. 社内に埋もれている発想や社外で起こる変化
3
「2」違和感を覚えるとあるが、どのようなことに違和感を覚えているか。
1. 不確定な要素が多いため目標を立てないこと
2. 周囲の状況は変わるのに目標を固定すること
3. 目標を立てたのにそれを口にしないこと
4. 目標を立てたのにそれを変えなくてはならないこと
4
この文章で筆者が言いたいことは何か。
1. 実現不可能なくらいの大きな目標を立てて達成に向けて努力すべきだ。
2. 自分の可能性を大事にするためには、大きな目標を立てるべきではない。
3. 自分が持つ可能性が最大限に発揮できるような目標を探し続けることが重要だ。
4. 目標を立てることに縛られず、目の前のことに最善の対応をすることが重要だ。