JLPT N1 – Reading Exercise 120

#347

視覚しかく聴覚ちょうかくなどの情報処理じょうほうしょりにおいては、のうはたらきの個人差こじんさ比較的ひかくてき少ない。まるいものを提示ていじすれば、のうはそれをまるいものとして認識にんしきする。まるいものを提示ていじしたときに、それを「まる」と認識にんしきするひとと「三角さんかく」と認識にんしきするひと相半あいなかばするということはありない。同様に、ある{ピッチ}のおといたときに、その情報処理じょうほうしょり個人差こじんさはあまりられない。 その一方いっぽうで、ある事象じしょうたいする感情かんじょう反応はんのうにおいては、個人こじんによるばらつきがおおきくなるのが通例つうれいである。同じものをまえにしても、すべてのひとがそれをきだとかんじたり、ぎゃくすべてのひとがそれをきらいだとおもうとはかぎらない。あるひときだとかんじるものを、べつひときらいだとおもうのはごく普通ふつうのことである。感情かんじょうにおいては、のう反応はんのうおおきな個人差こじんさられるのである。 そもそも、感情かんじょうはたらきとはなんであろうか?ひとむかしまえには、感情かんじょうとはある特定とくてい刺激しげきたいする類型的るいけいてき反応はんのうであるとかんがえられてきた。大脳新皮質だいのうしんひしつになっている理性りせいはたらきが環境かんきょう変化へんかおうじて柔軟じゅうなん情報処理じょうほうしょりおこなうのにたいして、「爬虫類はちゅうるいのう」ともばれるふるのう部位ぶい重要じゅうよう役割やくわりにな感情かんじょうは、一定いっていまりった反応はんのうをするものとおもわれていたのである。 しかし、近年きんねん脳科学のうかがく発達はったつにより、感情かんじょうは、むしろきるうえけることのできない不確実性ふかくじつせいたいする適応戦略てきおうせんりゃくであることがあきらかになってきた。理性りせいではれない、結果けっかがどうなるかわからないようななま状況じょうきょうにおいて、それでも判断はんだんし、決断けつだんすることをささえるための情報処理じょうほうしょりの{メカニズム}として、感情かんじょう存在そんざいしているとかんがえられるにいたったのである。 (中略ちゅうりゃく感情かんじょう不確実性ふかくじつせいたいする適応てきおうであるとかんがえると、その反応はんのうにおいて個人差こじんさしょうじるのは自然しぜんなことである。 不確実ふかくじつ状況じょうきょうもとでは、とるべき選択肢せんたくしの「正解せいかい」はひとつとはかぎらないからである。 さまざまな人々ひとびとことなる戦略せんりゃくをとり、全体ぜんたいとしてバラエティがしたほうが、人間にんげんという生物種せいぶつしゅ全体ぜんたいとしては、むしろ適応的てきおうてきである。生死せいしにかかわるような状況じょうきょうにおいては、たとえ、ある選択せんたくをしたひと不幸ふこうにしてんでしまったとしても、べつ選択せんたくをしたひときのびれば生物種せいぶつしゅとしては存続そんぞくできるからである。全体ぜんたいが同じ選択肢せんたくしえらんでしまっては、環境かんきょう変化へんか予想よそうのできない事態じたいたいして脆弱ぜいじゃくになってしまう。 他人たにんことなる感情かんじょう反応はんのうせることを許容きょようすることの倫理的りんりてき基礎きそは、まさにこのてんにある。他人たにん自分じぶんことなる感情かんじょうなかにあることに反発はんぱつするのは自然しぜんこころうごきであるが、とらわれてはいけない。自他じた差異さいたいして許容的きょようてきであることが、すぐれて生命哲学せいめいてつがくじょう原理げんりにかなっているのである。 (茂木健一郎もぎけんいちろう疾走しっそうする精神せいしん」による) 相半あいなかばする:同じくらいである とらわれる:ここでは、あるかんがえにしばられる

Vocabulary (63)
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1
知覚の情報処理と感情の反応について、筆者はどのように述べているか。
1. いずれも大きな個人差が見られる。
2. いずれも個人差はあまり見られない。
3. 知覚の情報処理のほうが大きな個人差が見られる。
4. 感情の反応のほうが大きな個人差が見られる。
2
近年、感情の働きはどのようなものだと考えられるようになったか。
1. 避けられない状況を受け入れるためのもの
2. 避けられない状況において、理性を保つためのもの
3. 不確実な状況において、判断して決断するためのもの
4. 不確実な状況において、正解を求めるためのもの
3
個人差が生じることがどのようなことにつながるか。
1. 人間という生物種の存続
2. 人間と他の生物種との共存
3. 生死にかかわるような事態の減少
4. 環境の変化に対応できる生物種の増加
4
筆者の考えに合うのはどれか。
1. 人々が生きていくためには、感情の個人差を敏感に察知すべきだ。
2. 人々が生きていく上では、感情の反応の個人差を受け入れたほうがいい。
3. 感情の反応に個人差があることこそが、人間であることのあかしである。
4. 感情の反応に個人差があることは、人間を取り巻く環境の変化によるものである。