JLPT N1 – Reading Exercise 79

#306

以下いかは、長年ながねん{インタビュー}を仕事しごとにしているひといた文章ぶんしょうである。 なにかと取材しゅざいしつくされたようないま時代じだいにも、った電車でんしゃよこすわった、ぐらいのちかくにいる普通ふつうひとたちの辿たどった過去かこ精神的せいしんてきみちのりを取材しゅざいすることには(1)可能性かのうせいのこされている。これは幸福こうふく感触かんしょくだった。普通ふつうひとたいして、話題わだい人物じんぶつおなじような方法ほうほうでなるべく丁寧ていねいはなをうかがってみたけれど、そのうちの一部分いちぶぶんは、これはある職業しょくぎょうにおける普通ふつうひとたちへの{インタビュー}として、昨年さくねん発表はっぴょうした拙著せっちょ書店員しょてんいん」というほんにまとめた。特殊とくしゅ人物じんぶつ発言はつげんよりむしろそんな普通ふつうひとたちの実感じっかんこそ、数十年後すうじゅうねんごかえれば時代じだい証言しょうげんにもこえるのではとおもうようになっていった。(2)有意義ゆういぎ取材しゅざい開拓かいたくされきったような空白くうはく時代じだいに、特別とくべつ極端きょくたん物語ものがたりはもういいやという状況じょうきょう隙間すきまつけようとして、そこらへんにごろんところがっているこえみのりにたまたまづかされたわけだ。 過去かこは、文句もんくえないかたちで(3)「これだ」とせられるようなものではない映像えいぞうなどで記録きろくされていてさえ、人物じんぶつ内面ないめんきたこころ大事件だいじけんみたいなものはとらえられなかったりもする。解釈かいしゃく変化へんかするから、おな出来事できごとへのおな人物じんぶつ談話だんわ十年前じゅうねんまえいまでかなりことなることもよくあり、つまり過去かこ人物じんぶつ内面ないめんうごつづけていて、かたちたない怪物かいぶつのようでもある。過去かこ解釈かいしゃくは、本人ほんにん切実せつじつかんじているからこそ人生じんせい陰影いんえいあたえるため、主観しゅかん記憶きおくなに真実しんじつかさえも重要じゅうようではない場面ばめんがある。有名ゆうめい無名むめいわず、さまざまなかた取材しゅざいはなをうかがううちに、この過去かこという確固かっこたるかたちたずうごつづける怪物かいぶつにこそ人間にんげんまわされたり、あるいはあるつづけていくための滋養じようをもらったりするようだな、と思うようになっていった。 (木村きむら俊介しゅんすけらしの手帖てちょう」2014年6―7月号;てちょう」2014ねんろく―しちがつごうによる)

Vocabulary (34)
Try It Out!
1
(1)可能性とはどのようなことか。
1. 普通の人のほうが、丁寧に取材に応じてくれること
2. 普通の人の実感に、取材すべきものを見いだせること
3. 普通の人への取材では、共感できる話を聞けること
4. 普通の人への取材のほうが、幸福な時間に感じられること
2
(2)有意義な取材とはどのようなものだったか。
1. 普通の人から時代の証言になるような話を聞く。
2. 普通の人から数多くの普通の話を聞く。
3. 話題の人物から日常の何げない話を聞く。
4. 特別な人から特別な話を聞く。
3
(3)「これだ」と見せられるようなものではないとあるが、なぜか。
1. 過去は心の中で形を変えていくものだから
2. 過去はあまりに多くの出来事を含んでいるから
3. 過去の記録は過去の一部でしかないから
4. 過去の記憶は徐々に薄れていくものだから