JLPT N1 – Reading Exercise 47

#274

ほうもとでの人間にんげん平等びょうどうは、憲法けんぽうでも保障ほしょうされた人間にんげん権利けんりである。しかし現実げんじつには、すべての人間にんげん人間にんげん活動かつどう平等びょうどう保障ほしょうされているわけではない。社会的しゃかいてき民族的みんぞくてき差別さべつ問題もんだいおおきい。ここではこうした基本的きほんてき人権じんけんにかかわる問題もんだいではなく、職業しょくぎょう教育きょういく所得しょとくかんする平等びょうどう不平等ふびょうどう問題もんだいろんじる。 例えばおや階層かいそう職業しょくぎょう所得しょとく)の不利ふりさが子供こども学歴がくれき達成たっせい支障ししょうとなることをかんがえてみよう。おや所得しょとくたかくないために、子供こども大学だいがく進学しんがくをあきらめた{ケース}はどうだろうか。奨学金しょうがくきん制度せいど充実じゅうじつしておれば、本人ほんにん能力のうりょく努力どりょくがあるかぎり、大学だいがく進学しんがくみちひらかれている。わがくに奨学金しょうがくきん制度せいどがさほど充実じゅうじつしていないことは、{アメリカ}との比較ひかくあきらかである。わがくにには機会きかい不平等ふびょうどうのこっているといえる。ぎゃくに、{アメリカ}では機会きかい平等びょうどうへの執着しゅうちゃくつよいといえる。もっともわがくににおいても、国民こくみん所得しょとく水準すいじゅん向上こうじょうしたことによって、おや経済力けいざいりょく原因げんいんとなって進学しんがくできないという{ケース}は以前いぜんより減少げんしょうしており、この問題もんだい不平等性ふびょうどうせい低下ていかしている。 もう一つれいをあげてみよう。企業きぎょう新卒者しんそつしゃ採用さいようするとき指定校していこう制度せいどというものがある。特定とくてい大学だいがく学生がくせいのみに受験じゅけん面接めんせつ機会きかいあたえられ、ほか大学生だいがくせいにはその機会きかいがない制度せいどである。企業きぎょうがこの制度せいど採用さいようする理由りゆうつぎとおりである。第一だいいちに、入学にゅうがく試験しけんのむずかしい大学だいがくや、教育きょういくをしている大学だいがく学生がくせいは、知的ちてき活動かつどう生産性せいさんせいうえ優秀ゆうしゅう学生がくせいという印象いんしょうがある。第二だいにに、それらの大学だいがく卒業生そつぎょうせいが、企業きぎょう成果せいかげていることをその企業きぎょうっている。第三だいさんに、応募おうぼしてくるすべての学生がくせい無制限むせいげん選考せんこうすれば{コスト}がかかる。これらを要約ようやくすれば、企業きぎょうにとっては合理的ごうりてきかつ選択せんたくの{リスク}がちいさい制度せいどなのである。 ただし、ここで指定校していこう制度せいど合理性ごうりせい指摘してきすることによって、「受験戦争じゅけんせんそう」を肯定こうていするは ない。(中略ちゅうりゃく過酷かこくな「受験戦争じゅけんせんそう」には側面そくめんおおいので、戦争せんそうをなくする必要性ひつようせいたかい。 ところで、特定とくてい大学だいがくいがいの学生がくせいにとっては、就職しゅうしょく試験しけん機会きかい最初さいしょから排除はいじょされているので、機会きかい不平等ふびょうどううつるかもしれない。たしかにその側面そくめんがあることは否定ひていしえないが、 よくかんがえるとその人達ひとたちにも特定とくてい大学だいがく受験じゅけん機会きかい高校生こうこうせいときにあったわけで、機会きかい平等びょうどう完全かんぜん排除はいじょされていたとはいえない。実際じっさいにその大学だいがく受験じゅけんしたかどうかは問題もんだいではない。しかし高校生こうこうせいにまで企業きぎょう指定校していこう制度せいどがあることをっている、と期待きたいするのはこくである。機会きかい平等びょうどうをこのようにかんがえてみると、意外いがい複雑ふくざつ原理げんりなのである。 機会均等きかいきんとう原理げんり実施じっしすることはそう容易よういではないが、理想りそうとしてつね念頭ねんとうにおかれるべき原理げんりである。すべての意欲いよくのあるひとには、参加さんか競争きょうそう機会きかいあたえられることがのぞましい。教育きょういく機会きかい仕事しごと機会きかい就職しゅうしょく機会きかい昇進しょうしん機会きかい人生じんせいじょう様々さまざま活動かつどうにおいておおくのひと平等びょうどう機会きかいあたえられたすえに、参加者さんかしゃきそうこととなる。競争きょうそう結果けっか勝者しょうしゃ敗者はいしゃることは仕方しかたのないことだし、勝者しょうしゃにも順位じゅんいづけがおこなわれることもやむをえない。 (橘木たちばなぎ俊詔としあき日本にほん経済格差けいざいかくさ岩波書店いわなみしょてんによる) こくである:きびしすぎて無理むりがある 念頭ねんとうにおく:意識いしきする、考慮こうりょする

Vocabulary (122)
Try It Out!
1
第2段落の内容と合っているものは、どれか。
1. 日本では親の経済力が高くないために子供が進学できないケースは減ってきている。
2. 日本では親の経済力が高くないために子供が進学できないケースが依然として多い。
3. アメリカでは機会の平等が重視されるが、奨学金制度は日本ほど充実していない。
4. アメリカでは機会の平等が日本ほど重視されないが、奨学金制度は充実している。
2
指定校制度の特徴として、筆者の説明と合うものはどれか。
1. 特定の大学の卒業生だけがその企業で働くようになるため、企業に対して忠実な社員を増やすことができる。
2. 多くの学生の中から選ぷことになるため、企業は入社後すぐに成果を上げられる人を見つけることができる。
3. 特定の大学以外の学生は、応募する際に試験を受けなければならないため、一定の基準以上の人を選ぶことができる。
4. 優秀な学生がいると考えられる大学の学生だけが応募できるため、企業は低いコストで適当な人を選ぶことができる。
3
その人達とは、どのような人を指しているか。
1. 大学受験をしなかった高校生
2. 企業の採用試験に応募してくるすべての学生
3. 企業が受験・面接の機会を与えていない大学の学生
4. 企業が受験・面接の機会を与えている特定大学の学生
4
高校の段階にまでさかのぼって考えた場合、指定校制度と機会の平等について筆者はどのように評価しているか。
1. 高校生が指定校制度がなくなることを期待するはずがないから、機会の不平等はそれほど大きな問題ではない。
2. 高校生は指定校制度があることを知ったうえで大学を受験しているのだから、機会の不平等はそれほど大きな問題ではない。
3. どんな高校生でも指定校の大学を受験することはできるが、すべての受験生が合格できるわけではないから、機会が平等であるとは言いきれない。
4. どんな高校生でも指定校の大学を受験することはできるが、指定校制度の存在はほとんど知らないだろうから、機会が平等であるとは言いきれない。
5
筆者がこの文章で最も言いたいことは、どれか。
1. すべての人間活動に平等が保障されているわけではないが、法の下での人間の平等は憲法でも保障された人間の基本的な権利であり、尊重されるべきである。
2. 日本では、国民の所得水準が向上したことにより、職業、教育や所得に関する不平等の問題は減ってきたが、社会的・民族的差別の問題が大きくなっている。
3. 機会の平等は複雑で実践の難しい原理だが、職業や教育に関する活動においてすべての人に平等な機会が与えられるべきであることを忘れてはならない。
4. 現代社会は基本的に競争社会であるから、競争の結果、勝者と敗者に分かれ、勝者にも順位がつけられることはやむをえない。