見越入道と旅人
ある雨と風の強い夜、1人の旅人が暗い森の中を歩いていました。道の横の木の枝に古いわらじが2つ、下がっているのが見えました。不思議に思って近くに行くと、白い服を着たお坊{さん}がいました。しかしその目は、普通ではありませんでした。お坊{さん}は優しく笑って言いました。「旅人よ、私は見越入道だ。あの薪を少し見せてくれないか」旅人は、うなずいて道の薪を見せました。しかし、顔を上げると、お坊{さん}の首がとても長くなって、白い影が空のほうに伸びていきました。冷たい風が吹いて、木の葉が音を出しました。旅人はとても怖くなりましたが、見越入道の話を思い出しました。「しっかり立って、見越入道の名前を呼ぶと、元に戻る」旅人は震える声で言いました。「見越入道! 縮め!」すぐに、長くなっていた首が短くなって、白い影は消えました。夜の静かさだけが残って、枝のわらじだけが少し揺れていました。次の日、村の人たちは言いました。「怖いものに会ったら、しっかり見て、正しい名前を呼ぶこと。それが暗いところを明るくして、道を開く」それから、夜にあのわらじを見た人は、見越入道の話を思い出して、落ち着いて夜を過ごすようになりました。